3,000円払って映画館に入った。開始30分。……あまり面白くない。残りはあと2時間。もう帰って、家で別のことをしたほうが有意義な気もする。
でも、こう思う。「せっかく3,000円払ったんだし、最後まで見ようかな」
その3,000円。最後まで見ても、途中で帰っても、もう戻ってこない。すでに使ってしまって取り戻せないお金や時間をサンクコスト(埋没費用)という。そして人は、この「もう取り戻せないもの」を惜しむあまり、さらにお金や時間を使ってしまうことがある。

ちなみに私は映画館なら最後まで見るわ。

そうなんだ!面白くなくても?

ええ、ポップコーンが残っているもの。

それ家で食べれるから!!
払った3,000円ではなく、残り2時間を考える
映画の例なら、本来考えるべきことは「3,000円払ったから最後まで見るか」ではなく、ここから2時間、この映画を見る価値があるかよ。
面白くなりそうなら残る。もう無理だと思ったら帰る。どちらを選んでも、すでに払った3,000円は変わらない。ところが「せっかく払ったから」が入ると、3,000円を無駄にしたくなくて、さらに2時間を使う。
8,000円で買ったゲームが面白くない。でも高かったから遊び続ける。ほとんど行っていないジムを「入会金も払ったし」と解約しない。一度払ったものほど、私たちは手放しにくい。
お金より厄介なのが「時間」
たとえば恋愛。3年間付き合っている。最近はケンカばかり。この先も一緒にいたいのか、自分でもよく分からない。それでも「でも、もう3年付き合ったし」と考えてしまう。
これは責められるような話ではない。3年は長い。思い出もある。ただ、「3年間付き合ったこと」と「4年目も付き合いたいこと」は同じではない。過去を大切にすることと、過去のために未来まで決めることは違う。
「ここまで頑張ったのに」も強い
努力にも同じことが起きる。資格試験の勉強を1年間続けた。でも環境が変わって、その資格を取ってもほとんど使わないと分かった。それでも「ここまで勉強したんだから」と続ける。
続ける理由がほかにあるなら問題ない。資格自体が欲しい、転職で使える、あと少しで合格できる。それなら続ければいい。でも最後に残るのが「ここまでやったから」だけなら、一度サンクコストを疑ってもいい。
会社になると、もっとやめづらい
新規事業に1億円投資した。半年経った。思ったほど売れない。そこで「でも、もう1億円使っています」「ここで撤退したら全部無駄です」「あと半年だけ」と追加投資する。半年後、今度は「1億5,000万円も使っているから」となる。

最初よりやめにくくなってるね。

そう。だから追加投資そのものより、何を根拠に続けるのかを見る必要があるの。
追加投資すれば伸びる根拠があるなら続ければいい。問題は、これから伸びるから続けるのか、ここまで使ったからやめられないのかが混ざること。
しかも会社では「自分の判断」まで乗ってくる
企画した本人、承認した上司、予算を通した経営陣。撤退すると「この判断はうまくいきませんでした」と認めることになる。すると「市場が成熟していないだけ」「短期の数字だけで見るべきではない」と説明が増えることがある。
もちろん本当にそういう事業もある。ただ、続ける理由なのか、やめたくない理由なのかは分けたほうがいい。
迷ったら「今日初めて知ったなら?」で考える
使いやすい質問がある。「今日初めてこれを知ったとして、それでも選ぶ?」 今の会社を今日初めて求人票で見たら応募するか。使っていないサブスクを今日初めて見つけたら払うか。今の企画を過去の投資額なしで見ても追加予算を出すか。
過去を完全に無視する必要はない。でも一度外してみると、これからも続けたいのか、今さらやめられないのかが見えやすくなる。
過去を取り返すために、未来まで使わない
サンクコスト効果の厄介なところは、「過去を無駄にしたくない」という普通の気持ちから始まること。3年付き合った。100万円使った。1年間頑張った。だから、やめたくない。
でも過去に使ったものはもう戻ってこない。だったら、これから使う1年、50万円、30時間を本当にそこへ使いたいのかを見る。過去を取り返そうとして、未来まで追加で差し出さなくていい。

ヨミちゃん、そういえばあのゲームまだやってる?

ええ。毎日ログインしているわ。

好きなんだ?

いいえ、もうほとんど飽きているわね。

じゃあ、なんで?

……8万円ほど課金しているから。

今日ずっと何の話してたの?

……サンクコスト効果ね。

明日じゃなくて今日アンインストールしよ?
